大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)6号 判決 1968年8月28日
原告
住所、氏名は別紙のとおり
右訴訟代理人弁護士
別紙(一)記載のとおり
大阪市東区大手前之町
被告
大阪国税局長
佐藤吉男
右指定代理人検事
広木重喜
右同
検事 鎌田泰輝
右同
法務事務官 奥田五男
右同
法務事務官 吉田周一
審査請求に対する不作為の違法確認請求事件
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告訴訟代理人は、申立、請求原因等として別紙(二)、(三)のとおり陳述し、被告主張の日に原告の審査請求について裁決がなされ、裁決書の謄本がその頃原告に送達されたことは認める、と述べた。
被告指定代理人は、答弁として別紙(四)のとおり陳述し、原告主張の確定申告、異議申立、それに対する決定、審査請求がそれぞれその主張の日になされたこと、被告が原告主張の期間当該裁決をなさず、裁決がなされたのは本訴提起後であることは認める、と述べた。
按ずるに、原告がその主張の日に被告に対し審査請求をなしたこと、被告が本訴提起後である被告主張の日に裁決をなし、その頃裁決書の謄本が原告に送達されたことは当事者間に争いがない。
ところで本訴は、被告が原告のなした審査請求に対し相当の期間が経過したのに裁決をしないことの違法確認を求めるものである。一般に、不作為の違法確認の訴えは、行政庁が法令に基づく申請あるいは不服の申立てを受け、相当の期間内にこれに対するなんらかの処分(裁決、決定等)をなすべきであるにかかわらず、これをしない場合に、その行政庁の不作為自体の違法であることの確認を求める訴えである。この訴えの目的は、行政庁の違法な不作為自体により利益を侵害されている原告を救済することにある。従つて、たとえ原告の申請(審査請求)があつた後相当期間を経過して違法な不作為状態が現出されたとしても、その後前示のように裁決がなされ、現に被告の不作為自体が存在しない以上、原告には本案判決を求める利益がなくなつたものと解するを相当とする。
原告は被告の裁決によつて本訴の目的を達成したので訴訟が終了したと主張し、予備的に本件訴訟終了の確認判決の申立(訴え)をしているが、前示のとおり被告が裁決をしたことによつて原告には本案判決を求める利益(訴訟要件)がなくなつたのであり、右申立をもつて原告が本案判決を求める申立たる訴えの取下をしたものと解することはできず、その他訴訟終了の原因は存しないから、本件訴訟が依然として係属していることは明白である。
よつて本件訴えを却下することとし、なお訴訟費用の負担につき考えるに、原告主張の日に本件審査請求がなされたにもかかわらず、本訴提起当時には未だ裁決はなされておらず、その後被告主張の日に至つて漸く裁決がなされたのであつて、右裁決がなされたため本件訴えを却下するけれども、弁論の全趣旨によると、この種裁決をなすのに通常必要と考えられる相当の期間を経過しており、本訴提起はその当時の状況から必要であつた行為と認められ、予備的申立の当否は右認定に影響を及ぼさないから民事訴訟法九〇条後段を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 藤井俊彦 裁判官 井土正明)
別紙 原告の住所、氏名
大阪市東成区大今里北之町五ノ三二
辻野岩男
以上
別紙(一) 審査請求に対する不作為違法確認訴訟
原告訴訟代理人
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
原告代理人弁護士 荒木宏
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
原告代理人弁護士 石川元也
大阪市北区梅ヶ枝町一四四 千代田ビル 平和合同法律事務所
右 同 井関和彦
大阪市北区絹笠町一六 大江ビル
右 同 伊多波重義
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 石橋一晃
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 宇賀神直
大阪市東区京橋前之町二 大手前法律事務所
右 同 梅田満
大阪市東区淡路町一丁目七 片岡ビル
右 同 太田全彦
大阪市北区若松町二の六 昭栄ビル南館
右 同 岡田和義
大阪市東区今橋一の一〇 朝日生命会館内
右 同 大野康平
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 太田隆徳
大阪市北区真砂町五四 ニユー三栄ビル
右 同 大錦義昭
大阪市北区西寺町二の一五 平等ビル 大阪民主共同法律事務所
原告代理人弁護士 岡村渥子
大阪市天王寺区石が辻町二八 奈良ミシンビル
右 同 加藤充
大阪市北区絹笠町一六 大江ビル
右 同 河原正
大阪市北区真砂町五八 ワカエビル
右 同 上田稔
大阪市北区梅ヶ枝町一四四 千代田ビル 平和合同法律事務所
右 同 鏑木圭介
大阪市東区釣鐘町十一の三六 ニユー大阪ビル
右 同 片山善夫
大阪市北区老松町三丁目五六 天満ビル
右 同 川田祐幸
大阪市北区梅田町二六 島津ビル
右 同 香川公一
大阪市東区北浜四の七 政経ビル
右 同 金谷康夫
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 河村武信
大阪市北区若松町 若松ビル
右 同 川浪満和
大阪市北区樋之上町 新浪速ビル
右 同 鬼追明夫
大阪市北区絹笠町一三 絹笠ビル
原告代理人弁護士 岸田功
大阪市北区老松町二の一八 昭栄ビル南館
右 同 木村五郎
大阪市北区絹笠町五〇 堂ビル
右 同 久保井一匡
大阪市南区安堂寺橋通四の二 イイダビル
右 同 熊野勝之
大阪市北区旅籠町十二 第二森町ビル 民法協
右 同 小牧英夫
大阪市北区真砂町五四 ニユー三栄ビル
右 同 小林勤武
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 小林保夫
大阪市東区釣鐘町十一の三六 ニユー大阪ビル
右 同 児玉憲夫
大阪市東区北浜四の七 政経ビル二階
右 同 沢克己
大阪市北区源蔵町五
右 同 佐々木哲蔵
大阪市天王寺区石が辻町二八 奈良ミシンビル
右 同 佐藤哲
大阪市北区梅ヶ枝町一九九の二 星光ビル
原告代理人弁護士 菅原昌人
大阪市天王寺区石が辻町二八 奈良ミシンビル
右 同 杉山彬
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 鈴木康隆
大阪市南区北炭屋町二
右 同 田万清臣
大阪市東区平野町二の一一 道修ビル二二一
右 同 田川和幸
大阪市北区若松町二八 尾崎ビル
右 同 滝井繁男
大阪市北区絹笠町一六 大江ビル
右 同 竹内勤
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 高村文敏
大阪市天王寺区石が辻町二八 奈良ミシンビル
右 同 田中征史
大阪市北区老松町二の一八 昭栄ビル南館
右 同 高谷弘子
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 東垣内清
大阪市東区京橋前之町二 大手前法律事務所
右 同 徳永豪男
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
原告代理人弁護士 酉井善一
大阪市南区北炭屋町二 田万法律事務所
右 同 豊川正明
大阪市南区鰻谷西之町五七の六 イナバビル
右 同 徳田勝
大阪市北区老松町二の一三 北区商工会館
右 同 浪江源治
大阪市北区絹笠町一六 大江ビル
右 同 長野義孝
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 仲重信吉
大阪市天王寺区石ガ辻町二八 奈良ミシンビル
右 同 並河匡彦
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 永岡昇司
大阪市天王寺区上本町五の三 ヤマトビル
右 同 西岡雄二
大阪市北区西寺町二の一五の五 平等ビル
右 同 橋本敦
大阪市東区高麗橋四の三五 第一ビル
右 同 畑良武
大阪市北区真砂町五四 ニユー三栄ビル
原告代理人弁護士 服部素明
大阪市南区北炭屋町二 田万法律事務所
右 同 花垣厚実
大阪市北区兎我野町一二五 山菱ビル
右 同 東中光雄
大阪市北区老松町三丁目 塚本ビル
右 同 平山芳明
大阪市天王寺区石ガ辻町二八 奈良ミシンビル
右 同 福山孔子良
大阪市北区西寺町二の一五 平等ビル
右 同 細見茂
大阪市東区京橋前之町二 大手前法律事務所
右 同 正森成二
大阪市北区絹笠町一六 大江ビル
右 同 前川信夫
大阪市北区樋之上町二六 吉本ビル
右 同 三木一徳
大阪市北区梅ヶ枝町一二三 瑞穂ビル
右 同 毛利与一
大阪市東区伏見町二の二二 青山ビル
右 同 山内丹
大阪市北区西寺町二の一五の五 平等ビル
右 同 山田一夫
大阪北区絹笠町一三 神光ビル
原告代理人弁護士 山上益郎
大阪市北区老松町三の五七の一 千代田会館
右 同 山下潔
別紙(二)
申立(「註」の部分は別紙に記載し、末尾に添付)
(本位的申立)
原告が「註一」税務署長の「註二」付異議申立棄却決定に対し、「註三」被告に対してなした審査請求につき被告が何らの応答をなさないことは違法であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因
(本位的申立)
第一 審査請求に至るまでの経緯
一 原告は「註四」区内の零細商工業者が、自らの生活と営業をまもることを目的として組織した「註四」民主商工会ならびにこれら大阪府下の各商工会が結集した大阪商工団体連合会(通常大商連と略称)の会員である。
二 原告は「註五」記載年度の所得税の確定申告として訴外「註一」税務署長に対し当該年度分総所得金額を「註五」記載の通り申告したところ、右訴外税務署長は「註五」記載の通りに更正する処分を行いその頃その旨原告宛通知を行つた。
三 ところで右更正決定書には適法に理由が附記されておらず、かつ原告としては前記確定申告は自主的に公正な申告をなしたものであるので右更正処分を違法かつ不当なものなりとして「註六」訴外税務署長宛異議申立をなした。
四 これに対し訴外税務署長は「註二」原告の異議申立を棄却するとの決定をなし、その頃原告宛通知した。
五 右異議申立決定書にも充分な理由の附記がなく、何故に原告の申告が否認されたかの理由が不明であつたので再び原告は「註三」審査請求をなした。
しかし、右審査請求以来本訴提起まで既に「註七」を経過するにも拘らず被告は原告に対し何らの裁決もなさない。
第二 本件不作為の訴を提起する利益
一 国税通則法第八七条一項ならびに行政事件訴訟法第八条二項によると審査請求をなした日の翌日から起算して三月を経過したとき、その他正当な事由が存するときは原処分取消の訴を提起することが出来る旨の規定が存するが、これらの規定の存するにもかかわらず本件請求をなす理由は次のごとくである。
(1) 課税処分については一般の行政処分と異り、異議申立と審査請求という二段階の訴願前置が要求されておるが、被告は不当に長期間にわたつて裁決を下さないことにより行政不服審査法第一条の「簡易迅速に国民の権利利益の救済をはかる」との規定に違反し、納税者の「簡易迅速に救済さるべき不服申立の権利」を侵している。
(2) 不当に長期間にわたつて裁決をおくらせ、そのことによつて協議団が反復して調査を行い取引先の不信をつくりだすなど営業妨害を行い、それらの行為によつて納税者を動揺させ、審査請求の取下げを期待し、または取下げを強要する不当行為を行つている。
(3) 不当に長期間にわたり裁決をおくらせ、その結果不服申立中であり、またその審査対象となつている更正処分を承認していないにもかかわらず、差押え等の徴収処分を強行し、不動産の担保価値を傷つける等不当に財産権を侵害している。
(4) 審査の対象となつている更正処分の課税根拠は何一つ明らかにされず、異議申立の決定にも何ら具体的な理由の明記がなく処分の公正妥当性が全く不明で、当該更正税額を承諾することが不可能であるにもかかわらず、長期間にわたり裁決が放置されている間、多額の延滞金が一方的に累積されきわめて多大な金銭的損失をうけている。
(5) 以上の如く審査請求の裁決が長期にわたつて不当に遅延している結果、納税者の財産権、営業権、生存権等が侵害され租税法律主義の建前がじゆうりんされる等憲法違反の税務行政がますます助長されている。
二 結局、現在の大阪地方裁判所における行政訴訟の進行に照らすと右各種の事情は被告の裁決のあり方を直接是正するのでなければ解決されないこと、ならびに前記法条により取消訴訟に飛躍提訴することは、国税局協議団による現行不服審査制度の、ひいては訴願前置の趣旨を没却する結果に至るといわねばならない。
第三、不作為の違法性
一、大商連さん下単位商工会会員から被告に対してなした所得税の審査請求事件を過去五年間にわたり細別すると次のとおりである。
<省略>
このような多量の審査請求は所轄税務署長が原告ら大商連加盟会員に対し、大量かつ不当な更正処分をなしたことに起因するのであり、実に現在被告が審査中の全審査請求事案の約三五%に達する。
二、ところで国税通則法八三条によると被告が審査請求について裁決をする場合には協議団の議決に基づかなければならないこととなつており、この趣旨は大量かつ回帰的な課税処分の性質上第三者の立場から迅速慎重な審査をなし納税者の権利を保護せんとするにある。
このような協議団制度の趣旨に照らすと、第三者としての公正保持のために審査請求につき慎重な審議がなされることが求められるも、これが審査に相当な期間は最大限一年で充分である。
ことに、国税通則法七〇条によると更正決定の処分期間として三年が規定されており、法制度としては国民の財産権を制約する課税としてこの期間内に全てを解決せんとしているとみられるのであつて、三年を経過するものは尚さら違法性があるといわねばならない。
三、前述のごとく裁決の遅延は訴願前置制度の趣旨をじゆうりんし原告らの財産権、営業権、生存権を侵害するものであり、かつ租税法律主義にも違反するものであつて違法である。
被告の裁決の遅延は原告が商工会員である故をもつて故意に従つて他の審査請求者とは差別的になされたもので違法である。
以上の理由により被告が原告の審査請求につき応答しないのは違法である。
別紙(三)
第一 予備的請求の趣旨の追加
一、本件訴訟は本訴提起後、被告が裁決をなしたことにより終了した。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二 本件訴訟提起後、被告は期日指定のあつたものから順次、総計三六三件を上まわる裁決を下し、その中でも注目すべきことは全部取消及び一部取消に近いものが三分の二を越えているのである。このことは何を物語るか。
本訴において被告の違法な行為の実態を審理されることを恐れている結果といわざるを得ないのであつて、このこと自体実質的には請求の認諾といわざるを得ないのである。
多年にわたつて、なすべきことをなさず又、余計な違法行為を積み重ねて裁決を下さず、いざ訴訟となれば「裁決をなしたので訴訟費用は原告がもて」とは何たるいい草であろうか。全くもつて主権者たる国民を馬鹿にした話である。
本件は、まさにかかる次第で却下判決ではなくして、訴訟終了宣言をなすと同時に訴訟費用を被告に負担させるべきものであつてこゝに予備的に請求の趣旨をつけ加えるものである。
因みにドイツの学説判例は、訴訟係属中被告の任意の履行、その他の方法により訴訟の目的を達するとか、もしくは給付の訴の提起後給付の目的物が債務者の責に帰すべき事由により滅失した場合等において、本案の終了なる観念を認めている。而してここにおいて裁判所は、その事情の存否を審査し、その存在を認めた場合にのみ本案は終了せる旨を宣言し、旦つ訴訟費用負担の裁判をするわけである。
我が国においても、その例は少ないが、たとえば配当異議の訴訟において、異議を申立てた債権者が第一審の最初になすべき口頭弁論期日に出頭しないときは、異議を取下げたものと看倣される(民訴六三七条)。
この場合、大審院は異議取下の結果、訴は目的の喪失により当然終了するものとして「本件訴訟は異議の取下げにより終了した」との判決をなすべきものとした例(昭和一三、二、七大判民集一七巻八一頁、なお昭和一六、一、廿一、大判民集二〇巻一頁参照)もあり、最近ではかの有名な朝日訴訟上告審判決は「本件訴訟は、昭和三九年二月一四日上告人の死亡によつて終了した。」との主文を打ち出しておるのである。
ここに本主張の正当性が裏付けられるわけであつて、裁判所は予備的申立通りの判決主文をいいわたすべきである。
別紙(四)
申立(「註」の部分は別紙に記載し、末尾に添付)
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
主張
本訴において、原告は、被告に対してなした別紙(二)請求の原因第一項記載の審査請求について、被告が相当の期間内に裁決をなすべきにもかかわらず、これをなさないことについての違法の確認を求めておられるが、当該審査請求についての裁決は、「註八」行われ、裁決書の謄本はその頃原告に送達された。
従つて、本件訴の対象である不作為の違法確認を求める法律上の利益は最早存在しないのであつて、本件訴は不適法な訴として却下さるべきである。
別紙「註」部分の記載事項(第六号)
註一 東成
註二 昭和四二年二月一日
註三 昭和四二年二月二八日
註四 東成
註五 (一) 1 年度 昭和三十八年度
2 申告所得額 四〇〇、〇〇〇円
3 更正年月日 昭和四一年一〇月一一日
4 更正所得額 七一七、六〇〇円
(二) 1 年度 昭和三九年度
2 申告所得額 四四〇、〇〇〇円
3 更正年月日 昭和四一年一〇月一一日
4 更正所得額 八四四、七〇〇円
(三) 1 年度 昭和四〇年度
2 申告所得額 四七五、〇〇〇円
3 更正年月日 昭和四一年一〇月一一日
4 更正所得額 一、〇〇八、〇〇〇円
註六 昭和四一年一一月九日
註七 一年ケ月
註八 昭和四三年四月三日